04 TALK

北海道大学
工学研究院 環境循環システム部門
地圏循環工学分野

川﨑 了教授

北海道大学
工学研究院 環境循環システム部門
地圏循環工学分野

川﨑 了教授

生物資源という考え方……
古紙×微生物で実現する自然に優しい技術とは

微生物機能を利用した地盤改良技術をはじめ、生物学・微生物学と地盤工学とを連携させることで、新しい技術開発の研究を進める北海道大学大学院教授の川﨑 了氏。

「地球46億年の歴史の中で自然界が生み出した生物資源を工学に取り入れることで、様々な可能性が広がる」と考える川﨑氏が、明和製紙原料が開発を行っている古紙を使った地盤固化技術に着目し、従来解決できていなかった地盤改良の課題に向けて共同開発を進めている。

「自然に学ぶことで地球に優しい技術を作る社会を目指す」と述べる川﨑氏と、「新しい地盤固化技術を提案することで、世界の環境問題・産業問題の解決の一助になれば」と力説する当社代表の駒津に、共同研究の現状や今後の展望について語ってもらった。

微生物とコラボした
土木工学を研究

川﨑先生が取り組まれている研究について教えてください。

川﨑さん

川﨑:現在、北海道大学大学院の工学研究院に所属し、もともとは土木工学の中でも地盤・岩盤工学を専門に研究していました。しかし、次第に生物と力学とのコラボレーションに興味が出てきまして、現在は簡単にいうと、土を固める、土の中の水の流れを遅くする・止める、柔らかいものを固くするといったことを研究テーマにしています。

先生がそういった研究をされるきっかけが、ビーチロックに興味を持たれたことからと伺っています。

川﨑さん

川﨑:その通りです。“ビーチロック”とは、海岸の砂礫が石灰質の物質によって自然に固まった堆積岩の一種ですが、当初私はこれについて全く知りませんでした。たまたま海に興味があった研究室の学生が文献を見つけてきたことから新しい研究テーマとして始めたんです。通常、堆積岩が形成するには数十万年、数百万年とかかるんですが、ビーチロックは短いもので数十年、数百年単位でできることがわかっています。なぜ、通常の堆積岩と違い、それほどまでに早くできるのか。その形成メカニズムが解明できれば、工学的に応用できると考え、私はこれには微生物が関係しているのではないかという視点から研究を始めたんです。

ビーチロック形成のメカニズムには、微生物が関わっているんですね。

川﨑さん

川﨑:そのメカニズムは、まだ研究者の間でいろんな見解があるのですが、私自身は化学と生物学の両方が絡むことで、最終的にコンクリートのように固まるのではないかというスタンスでやっています。実際、微生物を使って砂を固める実験を行うと、炭酸カルシウムが析出することにより、砂を固化させることができ、1〜2週間ほどでコンクリートの半分ほどの強度になります。また、別の方法ならもっとスピーディにでき、コンクリートに近い強度まで高めることも可能です。

その技術を使えば、コンクリートを作る際に排出されるCO2を減らすこともできますね。

川﨑さん

川﨑:そう言うと、コンクリートやセメントが悪いという話になってしまいますが、セメントの使用量を減らすという意味では一つの方策かもしれませんね。また、他のメリットとして、小さな目詰まりで大きな強度を得ることができ、コストも削減することも可能です。

川﨑先生はビーチロックの研究以外に、環境中の有害な金属を生物の力を使って取り除く“バイオソープション(生物機能を用いた金属吸着)”の研究もされていると伺っています。その点も詳しく教えてください。

川﨑さん

川﨑:微生物の中でもバクテリアを使うのですが、バクテリアの表面はマイナスに帯電していることが多く、プラスの電荷をもつ金属イオンを吸着しやすいという性質があります。バイオソープションはこのバクテリアを使って、有用な金属、もしくは有害な金属を吸着回収する方法です。それを研究中だと理解していただければ。微生物の中には、汚染された地盤に含まれる石油などの油を分解するものもいて、国内でも数例の実績があります。

微生物の代謝を利用して砂を固めたり、微生物の表面がマイナスに帯電している性質を利用して有用・有害な金属を吸着回収したりと、微生物のいろんな力を様々な分野で活用されているのですね。

川﨑さん

川﨑:生物資源を上手に使うことで、いろんな可能性が広がりますから。例えばオランダの大学で開発された技術に「自己修復コンクリート」というものがあります。これはコンクリートにバクテリアを練りこんでおいて、固化後に割れ目や亀裂ができると、そこに水や酸素が入り、練りこんでいたバクテリアが活性化して炭酸カルシウムを作って割れ目や亀裂を埋めるという技術です。ヨーロッパは大理石などの石の文化ですから、海外ではそういった研究開発も進んでいるんですよ。

古紙の新たな使い道に着眼

川﨑先生と駒津さんは、琉球大学の松原先生のご紹介からお会いになられたんですよね。

駒津社長

駒津:その通りで、松原先生から土木工学の第一人者の先生がいらっしゃると聞いてお会いしました。その時に、弊社と松原先生と共同で進めている古紙の研究(液状化現象抑制のために古紙を活用する「MICP×WP」技術)を川﨑先生に見ていただいたんです。

川﨑さん

川﨑:初めてお会いした時に、その研究の話を聞かせていただき、古紙の使い方にそういったニーズがあることを初めて知りました。私の研究でも柔らかい地盤を固める際に水分を下げるのに苦労していたので、「これは案外この古紙が使えるのでは?」なんて思ったんですよ。

先生は、古紙をどのように使おうと思われたんですか?

川﨑さん

川﨑:古紙は植物由来の繊維なので、地盤に添加することで土粒子に絡みつき、また、周辺の水分を吸収する特徴があります。明和製紙原料さんの研究では、地盤に添加した古紙が微生物の居場所となり、微生物の活性に貢献する特徴があることもわかっていたので、ぜひこれを利用したいと思いました。

そういった経緯から、明和製紙原料さんは現在、川﨑先生とともに共同開発を進めていらっしゃるんですよね。

駒津社長

駒津:川﨑先生には、いろいろアドバイスをいただきながら試行錯誤していますが、なかなか難しいですね。早く理想的な地盤ができるような技術が確立できればいいんですが。

駒津さんとしては、この古紙を使った地盤固化技術が確立できたら、どのような新規事業を創造されていらっしゃるのでしょうか。

駒津社長

駒津:まずは、北海道の泥炭地ですね。北海道の泥炭地は、泥炭性軟弱地盤が社会問題になっていると聞いています。そこで、弊社の自然に優しい固化技術が貢献できることが理想ですね。また、そういった寒冷地泥炭とは異なる熱帯泥炭にも展開できればとも考えています。将来的には、インドネシアやマレーシアといった熱帯泥炭林にもこの技術を使い、環境問題や産業問題を同時に解決する仕組みを作りたいと思っています。

自然に学ぶ地球に優しい技術とは

川﨑先生は「自然に学ぶことで地球に優しい技術を作る社会」という言葉をよく使われていらっしゃいますが、この言葉はどういったことから出てきたのでしょうか。

川﨑さん

川﨑:私が携わっている工学は、基本的に“人間の幸せのためにある学問”です。もしくは、“人間がわがままにやるための学問”ともいえます。工学とは地球上にないものを、知恵を使うことで作っていくというもので、自然にでき上がるものではありませんよね。逆に、自然界は46億年の歴史の中で勝手に進化していき、そして、弱いものや不適合なものがどんどん淘汰され、結果として、一番優秀で合理的なものが残った可能性があると思うんです。そうすると、人間のわがままやアイデアで何かを作るという方法とは別に、自然界が成し遂げた無理のない方法、自然に委ねる方法というその知恵を借りることで、人間の幸せのために使ってもいいのかなと思っています。その思いや考えを「自然に学ぶことで地球に優しい技術を作る社会」という言葉で表現しているんですよ。

駒津社長

駒津:46億年の知恵を借りるという考え方はすごいですね。

川﨑さん

川﨑:私はどちらかというと、生物に興味がありますから、そこにいろんなヒントがあると思っています。最近では、生物の仕組みから学んだことを技術開発に活かす“バイオミミクリー”という言葉も一般的になり、そういった研究を発表する論文も増えています。例えば、野生ゴボウの実から生まれた面ファスナーや、ハスの葉を参考にした撥水技術など、すでに世の中には自然の叡智に学んで生まれた技術がたくさんあります。見方や発想を少し変えると、とんでもないエポックメイキングなことが起こり、それが人類の幸せに繋がると思うんです。

駒津社長

駒津:弊社が目指すのもまさに人はもちろん、地球も喜ぶ技術開発です。セメントを使わずに古紙と微生物で軟弱地盤を固化できれば地球への負担も少なく、また、CO2の排出抑制にも貢献できますから。そんなSDGsの実現にもぜひ貢献していきたいと思います。

地盤改良技術の将来的な展開

川﨑先生は、今進めていらっしゃる微生物機能を利用した技術の今後の展望として、どのようにお考えでしょうか。

川﨑さん

川﨑:基本的な技術はだいたいできているんですが、一番の問題はその技術の適用先ですね。適用先が変われば新たな課題がまた出てきますから。その上で、海岸の侵食や地盤沈下、斜面表層の保全など、そういった先に応用できればとは思っています。また、工学だけでなく、農業や文化財保全といった別の分野にも展開していけば、新しいニーズがあると思います。

駒津社長

駒津:違う分野でも展開できれば、いろんな可能性が広がりますね。

川﨑さん

川﨑:最初からここしか使えないと決めつけずに、いろんな分野を見た方がいいと思います。常識の一本道だけを歩かず、少し横道にそれるのもありかと。この技術には、いかようにも使う場所・使う方法があり、将来性も十分あると思うので、いろんな展開ができると思っています。ただ、現段階では費用がかかり、また時間もかかるので、これをどう改良するかといった宿題が残っています。インスタントラーメンみたいに、乾いたものを振りかければ、すぐに固まるようなものになればいいんですが(笑)。

明和製紙原料さんも古紙を使った地盤固化技術をいろんなところに使っていくと新しいビジネスが広がるかもしれませんね。

駒津社長

駒津:古紙に住みたい微生物がいればおもしろいですね。古紙と自然のコラボができれば、また新しい展開もできるかもしれないと思うと夢が膨らみます。

川﨑さん

川﨑:微生物はどこにでもいますから、案外古紙を好むものも見つかるかもしれませんよ。

駒津社長

駒津:そういうのを知っておくと、将来、ひょっとしたことから何かに繋がるかもしれませんね。

川﨑さん

川﨑:例えば今回の研究のように古紙に対して新たなニーズがあるように、我々が知らない人がそういったものを欲しがっている可能性はもちろんもあります。まずは思いつきや純粋な好奇心を大事にして取り組めば、形になるかもしれません。

駒津社長

駒津:私たちも好奇心を持ちながら、いろんなことに挑戦していきたいと思います。今後も先生にはご指導をいただきながら、社会に貢献できる企業を目指していきたいと思います。

本日はありがとうございました。

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