04 TALK

富山 潤 教授

琉球大学
建設材料学研究室

富山 潤教授

琉球大学
建設材料学研究室

富山 潤教授

次世代コンクリート ジオポリマーコンクリートの可能性……
古紙などの資源を有用資源として活用するために

島嶼環境の沖縄県は、島と島とを繋ぐ道路橋などが多く、塩害の影響が著しい。そこで、コンクリート工学を研究する琉球大学教授の富山 潤氏は、塩害などに強いフライアッシュコンクリートや、耐熱性や耐酸性にも優れた高機能な次世代コンクリートであるジオポリマーコンクリートの開発に力を入れている。

「次世代コンクリートは産業廃棄物を活用するなど、資源の再資源化も可能にする」と述べる富山氏と、「沖縄の古紙を沖縄で有効活用できるよう、レメディエーションの発想が必要だ」と賛同する当社代表の駒津に、沖縄における古紙の可能性と地消地産の取り組みについて語ってもらった。

コンクリート工学の研究

富山先生が取り組まれている研究について教えてください。

富山さん

富山:琉球大学でコンクリート工学の研究を行っております。現在、取り組んでいるのがコンクリート構造物の劣化抑制の研究です。沖縄県はご存知の通り、亜熱帯海洋性気候に属し、小さな島々から成る島嶼環境です。海に囲まれているため、道路橋などのコンクリート構造物は飛来塩分によって塩害劣化が促進されやすい厳しい環境下にあります。また、近年は遅延膨張性骨材により異常膨張やひび割れを引き起こすアルカリシリカ反応も確認され、多くの離島架橋を有する沖縄県ではコンクリート構造物の耐久性向上と長寿命化が目下の重要課題になっています。そこで、その対策としてフライアッシュコンクリートを用いた高耐久性コンクリートの開発を行っています。

フライアッシュコンクリートとはどういったものですか。

富山さん

富山:フライアッシュとは石炭火力発電所で石炭を燃焼した時に生成される球形微細な灰で、これを混和材として用いるコンクリートがフライアッシュコンクリートです。これをセメントの一部に用いると、ポゾラン反応(コンクリート中でガラス質物質がセメントの水和反応の進行とともに反応する現象)が長期間継続することで内部が緻密化され、セメントだけの場合より長期強度が増進し、耐久性に優れた構造物ができます。また、フライアッシュは産業廃棄物なので、環境負荷低減にも繋がるんですよ。

つまり、ポゾラン反応で強度が上がると、塩害による侵入抑制が制御されるということですか?

富山さん

富山:塩害は文字通り“塩の害”で、コンクリートの中に塩化物ナトリウムが入る現象です。通常コンクリートはpH12.5以上の強アルカリ性を持っており、このような強アルカリ性の中では鉄筋の表面に不働態被膜という薄い坂被膜を形成するため腐食はまずありません。しかし、コンクリートの表面から塩化物ナトリウムが内部に侵入すると、不働態被膜が塩化物イオンにより破壊され、鋼材の腐食が促進され、コンクリートにひび割れや剥離を引き起こしてしまいます。コンクリートはもともと多孔質材料なのですが、フライアッシュが加わると、ポゾラン反応相というのができ、緻密化します。そうすると、外からの腐食因子を抑制し、浸透しづらくなります。

外から飛来する塩分が内部に入りづらくなり、内部の鉄筋が守られるというわけですね。そうすると、塩害に遭いやすい構造物をフライアッシュコンクリートへと変えていけば、塩害に強いコンクリート橋梁などを造ることができますね。

富山さん

富山:実はすでにフライアッシュコンクリートは実用化されていて、2015年に開通した伊良部大橋にも採用されています。沖縄県では2017年にフライアッシュコンクリートの配合及び施工指針を策定し、私自身もその検討委員会の委員長を務めさせていただきました。その後もその指針をもとに、新本部大橋や都市モノレール、南部東道路など、多くの構造物でフライアッシュコンクリートの積極的な利用が推奨されており、実績もどんどん増えています。

次世代コンクリートの研究も進行中

富山先生はフライアッシュコンクリートに加え、ジオポリマーコンクリートの研究も進められていらっしゃいますよね。

富山さん

富山:そうですね。ジオポリマーコンクリートとは、セメントを使わず、フライアッシュ単体や、フライアッシュに加え製鉄所から排出する高炉スラグ微粉末で作る次世代のコンクリートです。通常のセメントコンクリートに比べ、耐酸性・耐熱性が高く、製造過程で発生するCO2量を大幅に削減でき、環境の面でも普及が期待されています。近年は産業廃棄物の再資源化が注目をされていますが、特に沖縄は島嶼環境で資源が少ないので、いろんな資源を再資源化する必要がありますからね。セメントも天然資源を使うので、いつまでも作れるわけではありません。ジオポリマーコンクリートも機能面はもちろん、廃棄物処理という観点からも活用する意義は大きいので、この研究には注力していきたいと思っています。

富山先生の研究の根底には、「沖縄のものを沖縄のためにどう使うか」といった発想が感じられます。やはり沖縄を思う気持ちが強いからでしょうか。

富山さん

富山:生まれも育ちも沖縄なので、その思いは確かにありますね。研究を始めた当初はそうでもなかったんですが、歳をとるにつれ、自分が置かれた立場で何か役に立つことがあればとはいつも思っています。

貴学に新しく設立された研究部門も沖縄と関連があるんですか?

富山さん

富山:本学の工学部にある地域創生研究センター内に設立された「エコマテリアルズ・インフォマティクス研究部門」のことですね。ここでは循環型社会と安全・安心な生活空間の構築や省力化された生産体制の構築を目的に、“人と自然に優しく長持ちする材料”の開発に資する研究を行っています。産学連携のプロジェクトになり、「高炉スラグ」や「古紙」、「サトウキビの製糖過程で生じるバガス(残渣)およびバガス灰」の再資源化などに取り組んでいます。サトウキビというのが沖縄らしくはありますが、あくまで循環型社会を目指すための今ある資源の再資源化を研究しています。

再資源化の研究で「古紙」という言葉が出ましたが、そもそも富山先生と駒津さんが出会われたきっかけを教えてください。

駒津社長

駒津:もともと、琉球大学の松原仁先生を介してご紹介いただきました。弊社は全国で一般家庭の古紙を回収するサービス「えこすぽっと」事業を展開しており、沖縄ではこの「えこすぽっと」を17ヵ所に設置しています。そこで集めた古紙を沖縄でどう活用していくかを思案していた時に、「沖縄のものを沖縄のために使おう」という富山先生の想いに大変共感したんです。そこで、コンクリートの新材料として古紙の使用を目的とした共同研究を進めさせていただくことになりました。

富山先生は最初古紙と聞いて、「これは使えるな」と思われたんですか。

富山さん

富山:正直申し上げると、当時はコンクリートしか扱っていなかったので、コンクリートに古紙を入れるという発想には至りませんでした。古紙は水を吸収するため、「もしかしたらコンクリートの強度を下げてしまうのではないか」と懸念したんです。しかし、その後にジオポリマーコンクリートの話が浮上し、それであれば可能性が広がるのではないかという見解に至り、共同研究をスタートさせました。

いわば、沖縄の資源を有効活用する一つの方策が導き出されたんですね。現在、行われているジオポリマーに古紙を使う研究はどこまで進んでいるのでしょうか。

富山さん

富山:現在は流動性と強度性の確認を行っているところです。ジオポリマーコンクリートの特性として粘着力が高いために型枠に付着してしまい、作業がしにくくなるという課題があるんですが、これに古紙を入れると粘着力が弱まるので打ちやすくなるという、すごく良い結果が出ています。強度的な問題も少しありますが、これは許容できる範囲ですね。今後予定しているのは、古紙を使った場合の収縮率の確認です。一般的なコンクリートは水と反応すると乾燥収縮するんですが、構造物になった時にこの収縮率が小さければ小さいほどいいんです。そこで、古紙を入れた場合の収縮率を測定して比較しようと思っています。こちらもいい結果が出ることを期待しています。それともう一つ、ジオポリマーコンクリートの特性として、遮熱性が他のコンクリートと異なるので、古紙を入れるとどう変化するのかという実験も予定しています。

駒津社長

駒津:実験によって古紙を使うメリットがいろいろ発見されればうれしいですね。富山先生の研究が進むにつれ、私たちも予想していなかった古紙の可能性が見つかり、大変驚いています。

“地消地産”という新しい発想へ

駒津さんはなぜ古紙を「沖縄で」使いたいと思っていたのでしょうか。

駒津社長

駒津:これからの時代、資源を再利用するリサイクルは当たり前で、これからは資源を有効活用することで環境を修復する「レメディエーション」の発想が必要だと弊社では以前から考えていました。そんな観点から着目したのが“島”なんです。資源や物流ルートが限られた島では、他のエリアよりも資源を循環することに意義を持ちます。そこで注目したのが沖縄でした。沖縄では島内で発生する古紙を島内の製紙会社のみでは利用しきれないため、ほとんどの古紙は海外や本土へと輸送していました。せっかくなら島内で有効活用できる道を探していこうと考えていた時に、富山先生と出会い共同研究へと辿り着きました。島内で活用できれば輸送コストも削減でき、環境負荷の低減にもなりますしね。

新しい循環の発想ですね。

駒津社長

駒津:つまり“地消地産”です。地域で生産されたものを地域で消費することを“地産地消”といいますが、この取り組みは逆で、地域で消費されたものを再び地域で生かすので、“地消地産”と呼んでいます。沖縄の方々はえこすぽっとに古紙を出される時も大変マナーがいいんですよ。非常にきれいに出してくださるんです。そこには環境への高い意識と、自分たちの土地や資源を守っていきたいという強い想いを感じます。その想いにきちんと応えていきたいと思っています。

富山さん

富山:そう思っていただけるのはうれしいですね。つい最近、野菜や植物を使ったボタニカルコンクリートの話を聞いたのですが、これがとても衝撃的でした。野菜や植物には“リグニン”という植物の形を形成するための成分があり、これに熱を加え,圧力を加えると硬化し、さらに灰コンクリートと灰木材を粉末状にして熱プレスするとコンクリートになるというんです。

駒津社長

駒津:それはおもしろいですね。

富山さん

富山:それに加えて、小笠原諸島の海底火山噴火の影響から、沖縄に大量の軽石が漂着しているのが問題になっています。これを回収した後もその処分をどうするかという課題がある中で、私自身は古紙と軽石との組み合わせでも新しいコンクリートができるのでは、と思っています。野菜や植物でもコンクリートができるように、今まで捨てられていたものや処理に困っていたもので新しい材料ができるという夢のような話ですが、これが実現化すればおもしろいでしょうね。

ジオポリマーに古紙を活用したり、ボタニカルコンクリートを作ったり、地消地産に取り組むなど、今後の展開がますます期待されます。

駒津社長

駒津:沖縄で出たものを沖縄で使い、それが沖縄のためになる。そうやって沖縄に貢献できるビジネスができれば理想的ですね。今後も価値ある古紙をもっと活用し、社会を豊かにする企業活動に取り組んでいきます。

本日はありがとうございました。

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