04 TALK

椋木 俊文教授

熊本大学
先端科学研究部 社会基盤環境部門

椋木 俊文教授

熊本大学
先端科学研究部 社会基盤環境部門

椋木 俊文教授

地盤工学分野におけるX線CTスキャナの活用……
先進的な研究で地盤内部の構造を解明する

地盤工学の分野においてX線CTスキャナを用いた研究に取り組む熊本大学教授の椋木俊文氏。
椋木氏の研究では、地盤内部をCTスキャンすることで、その構造を解明し、数値解析を行うことで3次元画像化を図るなど、中身や物理現象を可視化して解析できる研究技術として多方面から注目を浴びている。

「見えないものを見えるようにすることで、未知の世界を解明したい」と述べる椋木氏と、「その技術をMICP(微生物と古紙を活用した地盤改良)に活用して、そのメカニズムを見える化し、さらなる展開に繋げたい」と述べる当社代表の駒津に、X線CTスキャナを用いた研究の可能性と、それを活用することでMICPがどう発展するかを語ってもらった。

X線CTスキャナを地盤工学に活用

椋木先生が現在取り組まれている研究内容について教えてください。

椋木さん

椋木:私が専門とする地盤工学の分野では、およそ20年前までは地盤内の物質移動や分布状況を観察するためにはガラスやアクリル越しに観察するか、実験終了後に対象領域の地盤を抽出して直接観察する方法しかありませんでした。しかし、近年X線CTスキャナの登場により、地盤内の挙動を非破壊で可視化できるようになってきたんです。そこで私の研究室ではこのX線CTスキャナを用いて、地盤内における汚染物質の輸送メカニズムを解明する研究に力を入れています。

X線CTスキャナを用いた可視化とは、具体的にどうするのですか?

椋木さん

椋木:X線CTスキャナは、X線を対象となる物質に照射することにより、物体内部におけるX線エネルギーの吸収分布を数学的に求め、それを密度の空間分布として画像化できる装置です。簡単にいえば、物体に360度方向から光を当てると影ができます。その写った影から物体の形を推測するようなものです。X線CTスキャナの場合、光の代わりにX線を当てて、X線投影像からコンピュータで物体内部のX線の吸収量を計算し、その数値を画像化しています。X線CTスキャナは物体の断面をX線CT画像として見ることができ、それがデジタル画像なので3次元的な画像解析も可能なんですよ。

それを使って地盤内の汚染物質を可視化する研究とは?

椋木さん

椋木:汚染物質と一言でいってもいろんなものがありますが、ターゲットにしているのは水よりも密度が小さい揮発性有機化合物、いわゆる油です。例えば、ガソリンなどが地盤内に漏洩する事故が発生した場合、この油が浸透すると地下水帯に滞留し、地下水流による汚染拡大から汚染の長期化が問題になります。そこで、X線CTスキャナを用いて地盤内に油がどのように滞留しているかを可視化できれば、その後の浄化方法を提案できると考えています。これまでの研究では水を入れ込むフラッシングを行うことで、汚れたところがそれをする前後でどのように変わっていくのかを精査しています。
また最近は、挑戦的な研究になるんですが、本来混ざり合わない油と水を、超音波を使って土の中で乳化させることで、油本体だけでは取りにくいものを取りやすい状況に変化させるといった実験を行い、それをX線CTスキャナで分析する研究にも注力しています。

X線CTスキャナを使うと、そんなこともわかるんですね。椋木先生はこのX線CTスキャナを使って他分野の先生方とも連携されていると伺っています。

椋木さん

椋木:例えば、医学部の先生からの依頼でマウスの心臓や骨をスキャンしたり、農学部の先生とは農作物が育ちやすい土の状態をX線CTスキャナで観察するお手伝いをしています。以前、考古学の先生からの依頼で縄文土器に付着したコクゾウムシのCTスキャンを行ったこともあります。X線CTスキャナを使えば、土器ごとスキャンすることができるので、コクゾウムシの形を崩すことなくリアルな状態で撮影できました。それは世界最古のコクゾウムシの痕跡が確認できたとニュースにもなったんですよ。

それはすごいですね。先生の研究は医学や農学、考古学など多岐に渡って連携されているんですね。

椋木さん

椋木:X線CTスキャンを用いることで異分野の学問とも絡むことができ、その中で思わぬ発見に繋がることも多いですね。そういった異分野融合の中で得られたヒントを自分たちの実験にも取り入れています。

椋木先生がX線CTスキャナを用いる研究を続ける理由、その醍醐味は何ですか?

椋木さん

椋木:やっぱり見えないものが見えるということですね。私たちが学んできた学問は古典力学であって、そこに書かれているのは頭の中で想像した理論であり、実際にその通りがどうかはわからない部分が少なくないともいえます。しかし、X線CTスキャナを使えば、見たこともないものが可視化できる。それが一番の強みだと思っています。

CTスキャンで
見えないものを可視化する

椋木先生が明和製紙原料さんと共同開発を始めたきっかけを教えてください。

駒津社長

駒津:弊社が松原先生と共同開発するMICP(微生物と古紙を活用した地盤改良技術)を用いた際に、地盤内部で起こっている状態を3次元画像として見ることができないかという案を松原先生に提案したことがきっかけですよね?

松原教授

松原:そうですね。私の研究室でMICPの研究を進めていた時はSEM画像(走査顕微鏡画像)でしか確認できず,3次元で視ることはできなかったんです。そこで、CTスキャンの権威でもある椋木先生に協力をお願いしました。

椋木さん

椋木:X線CTスキャナを用いるもう一つの強みは、CT室の中で起こっている現象をそのまま画像解析できることです。そうなるとMICPにおいても、土粒子の周りに炭酸カルシウムが析出していることをそのまま画像解析でき、モデル化して3次元画像で見ることができるんです。
その際、CT室の中で現象を起こすと一言で言っても、それは容易なことではないんですよ。我々はCT室の中で押したり引いたり水を入れたりと様々な工夫を凝らすことで現象を起こしたり、CT室の中でしかできないオリジナルの装置を作ったりと、そういったことができることも我々の強みになっています。

なるほど。そういった椋木先生独自の技術と経験値に基づいてCT室の中で現象を起こし、そこで撮ったデータを一度数値解析し、そのデータを取り込みシミュレーションすることで、さらに精度の高いものができあがるんですね。

駒津社長

駒津:数字でいわれてもピンとこないものの、MICPにおける古紙のメカニズムをビジュアル表現で可視化できる点は魅力でした。3次元画像であれば動きもあるし、誰が見ても一目でわかりますからね。

CTスキャンで
MICPのメカニズムを解明

椋木先生は古紙を使うと聞かれた際、最初は難しい反応をされたそうですが、その点はどうだったんでしょうか。

椋木さん

椋木:ちょうどお話をいただいた時に、熊本大学にナノスケールで3次元構造を解析する高分解能X線CTスキャンが導入されたばかりで、解像度の問題がクリアできるかどうか確信がもてなかったことから少し懸念しました。期待に応えるものができるかどうかと思ったので。しかし、それも順調にクリアしつつあるので、今後はCTで撮ったデータをベースにして、松原先生のほうでシミュレーションしていただくことになります。

松原教授

松原:今後の作業としては、椋木先生が撮られたX線CT画像から土粒子のみを取り出し、それを我々の計算モデルに入れて、古紙の有無によって炭酸カルシウムの析出パターンがどう変わるのかを解析します。そして、得られた結果を古紙や炭酸カルシウムが写っている元画像と比較することで、我々が作ったモデルの妥当性を検証していくことになります。成功すれば、今まで2次元ではわからなかったメカニズムも見えてくると思います。例えば、この辺に炭酸カルシウムが集中するのはなぜか、なぜあっちでないのかなど。今まで想像しかできなかったことが定量化され、いろいろとわかってくるのではないでしょうか。

駒津社長

駒津:現在は「古紙を使うと炭酸カルシウムがその周りにつくらしい。その理由は栄養分を吸収しているから。もしくは、プラスの電荷を帯びることで微生物がつくから」など、曖昧な情報がたくさんあるわけですが、それが明確になると、MICPにおけるメカニズムがきちんとわかり、古紙の役割もはっきりするということですね。見えないものがちゃんと見える、可視化できることが新しい事業に繋がることを大いに期待しています。

古紙の持つ力を見える化し、
可能性を拡げる

駒津社長

駒津:椋木先生が在籍する熊本大学は、X線CTスキャナを用いて先駆的研究が行われてきたと伺っています。

椋木さん

椋木:熊本大学では1996年に産業用X線CTスキャンが導入されて以来、地盤・岩盤工学の研究グループが精力的に研究を継続してきました。2003年には地盤工学の分野では世界初のX線CTに関する国際ワークショップを熊本で開催し、これを機にX線CTの世界ネットワークの土台ができました。

駒津社長

駒津:その関係先の一つに、先進的なX線CT技術を持つフランスのグルノーブル大学とも繋がりがあるそうですね。

椋木さん

椋木:彼らは現在、X線と中性子とのハイブリッドな装置を作った研究を行っています。この装置を使うと、X線で捉えられる情報と中性子で捉えられる情報との双方の情報が得られるそうです。いずれはこの技術を私の研究室でも応用できれば、MICPの研究にも大いに役立てられるのではと思っているんですよ。

松原教授

松原:中性子のCTスキャンだと、水を捉えることができるんですよね。MICPでは水がトラップされている部分にたくさんの微生物がいて、そこに炭酸カルシウムが存在するんじゃないかという話もあります。もし、そこが見えれば、今の炭酸カルシウムの密度の差の原因もわかるんじゃないかと思うとワクワクしますね。

駒津社長

駒津:ますます見えないものがもっと見えるようになるということですね。すごい世界だ!古紙の持つ力を見える化によって一般の方にもわかるようになれば、さらに訴求に繋がると思います。可視化することによっていろんな原因が解明し、今後の研究をどう進めていくかの参考にもなれば、一方でMICPを説明するコミュニケーションツールとしても活用することができる。ぜひともその3次元画像を弊社のホームページのトップ画面に飾りたいですね!

椋木さん

椋木:期待に応えられるよう頑張ります。視覚に訴えることができるのが画像解析の醍醐味ですからね。その反面、我々が常々気をつけなければいけないと思うのが、正しい画像を見せるということです。画像は都合のいいよう見せることもできますからね。だからこそ、きちんとした画像データを取って、しっかりと正しい情報を伝えることにこだわり続けなければいけないとも思っています。

駒津社長

駒津:様々な分野を研究される先生方の協力を得て、古紙の持つ力を実証していければと思います。今後も多大なるご尽力を賜りたいと思います。

本日はありがとうございました。

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